HOME > 世界を豊かにする技術の創造!INNOVATION COMPANY

当技術を開発に至った経緯、目的を教えて下さい。

私の研究室ではもともと高分子の研究はしていたのですが、このネックレス状の高分子の研究をしていた訳ではありませんでした。 研究をスタートしたきっかけは、1995年の国際会議で大阪大学の原田先生とご一緒になったこと。当時、原田先生がネックレス状の超分子を世界で初めて作られて、それが非常に面白かったんですね。そこで、私の研究室の中でも「この研究をやろう」ということでテーマを変えて研究をはじめたのです。

ただ、もともと化学領域で行われていた原田先生の研究に対し、我々は物理の研究室だったので、結果として我々の研究内容は世界中の化学領域の研究方向とは全く違う方向に向かっていったんです。当時私の研究室におりました奥村くんと言う学生(現在は九州大学の准教授)が「ネックレスをつなぐ」ということを思いつきまして、それが独自の発見をもたらすきっかけになったんです。 そういう意味ではこの技術は何かを創りたい、というゴールありきで試行錯誤を重ねる中から出てきた技術ではなく、物理と化学の境界あたりに位置する基礎研究を、純粋な好奇心に身をゆだねて行っていた中から偶然うまれた発見だったんです。

それを事業化した訳ですが、事業化に至る経緯というのはどのようなものだったのでしょうか?

最初に発明したときから「これは非常に面白いぞ」という感触がありました。最初は“ゲル”という液体を含んでいる、身の回りで言うとプリンとかゼリーとか、そういうものを創ったんですが、これがこれまでのゲルとは全く違ったんです。ゲルというのはもろいというのが常識だったのですが、ものすごく伸びたり縮んだり、いままでのゲルにはない要素があった。そこで面白そうなので特許を出そう、という話になりました。先ほど申し上げたように私は基礎的な研究しかやったことなかったので、特許を出したことは一度もなかったんですが、まあ一応出してみようということになって大学に問い合わせました。そのときに、一番最初に話を聞きに来てくれた人が、原社長だったんですね。そのときはリクルートに在席で、初めて話したところ、これは面白い、ぜひ特許を出しましょう、ということになって、生まれて初めて特許を出したわけです。特許を出さなければ、事業への応用を考えることはなかったんじゃないかな、と思いますね。

日米欧中で物質によらない基本特許が成立したのは、どの部分が評価されてのことなのでしょうか?

これは“いままでにない”というところでしょうね、特許はやっぱり類似のものがあるとそこで弾かれてしまうので。我々はもともと物理の分野で研究をしていたので、化学の分野で同じ研究をしていた他の研究者とは全く違う視点を持ち込んだんですね。
物理の研究で培ってきた経験や知識を持ち込み、異種の領域を融合してみたら突然新しいものが出てきた、という感じだと思います。
仮にずっと同じ分野で研究をし続けてきたなら、過去にいろいろ積み重ねた知見を発表してしまいますので、ここまで広く基礎的な特許が成立することはあり得なかっただろう、と。
まったく違う分野からいきなり研究を始め、概念としても類似のものがまったくなかったので基本特許が世界的に成立したんじゃないか、といわれています。

初めてこの技術の発明を体感した瞬間というのはどういう気持ちでしたか?

それはもう、ワクワクしました。多分一生にそういうことはあまりないんじゃないかと思うんですけれども、それくらいかなりびっくりしましたし、これはなんか面白そうだな、と。この発明を一緒にしていた、学生の奥村君とも感動を共有しましたね、つい先日も講演会で行った九州で彼と飲んだばかりなんですが。

1986年に博士課程を修了し、一度通商産業省に高分子の研究者として就職しています。

そうですね、大学にいたときはものすごく基礎的な研究をやってたんですけれども、通産省の研究所に入って研究が産業につながるというのは非常に面白い、ということを学びました。だけど、その後また大学に戻ってしまったので、やはり基礎的な研究をやらないといけない、ということで、興味はあったんですけれども、しばらくの間、封印していました。この技術で特許を出してからは、いろんな会社の方が来られて話をする機会ができました。基礎技術を応用展開するうえでは通商産業省での経験というのも非常に役に立ったと思いますね。

通商産業省から、再び大学に戻ったきっかけというのは?

それは私の恩師である先生が戻ってこい、と(笑)それがほぼ100%の理由ですね。もちろん、採用に当たっては厳しい審査がありましたが・・・当時は主任に昇格したばかりで、しかもたまたまドイツへ2年間留学することが決まっていまして、向こうの先生にもお会いして宿泊先や奨学金をいただけることも決まっていたんです。留学を数か月後に控えたタイミングでのオファーでしたのでとても迷ったんですが、周囲に相談しても「そういう機会はあまりないよ」ということで、留学をサポート頂いた皆様には大変ご迷惑をおかけしてしまいましたが、大学に戻ることを決めました。ただ、そのときに大学に戻ることを選択していなければ今回の発明もたぶんなかったと思いますので、結果としてはよかったと思っています。

その後2003年に教授に就任ということですが、
東京大学ともかなり密接につながりながら今回の事業は生まれた印象ですね。

そうですね。東大には学外組織として2つの産学連携機関がありまして、ひとつは特許を扱うTLO(旧キャスティ)、もうひとつはファンドを行う東大エッジキャピタル(ユーテック)です。最初に特許を出したときはキャスティから出しました。
キャスティは私が特許を出す少し前に立ちあがりまして、その意味では非常にタイミングが良かったんですね。それ以前は、大学の先生が特許を出すときにはどこかの会社と一緒に出す、というのが一般的で、大学が主体となってやる、という形は例外でした。けれども、そのときは大学の独法化の流れもあって、大学としても特許の管理と運用をしっかりやらないといけない、という気運が高まっていたときだったんです。
その流れで当時大学側のエージェントを務めていた原さんとも会ったわけです。
 
そこで、原さんの力を借りて特許の申請を行い、認められて成立する訳なんですが、当時の我々としてはベンチャーを創るなんてことは考えてなくて、最初はいろいろな企業と一緒に応用開発を進める方向で考えていたんです。
かといって、まだ使い道がはっきりしない技術だったので企業に売り込もうという段階でもなく、宙ぶらりんな状況でした。応用研究を進めるためにはかなりの研究資金が必要なんですけれども、文科省や大学側に基礎研究ではない応用研究に資金を提供する仕組みはほとんどなかったんですね。

一方、国の政策としては大学発のベンチャーをどんどん作ることを推奨していまして、たまたま文科省が主催するプレベンチャー制度(文部科学省、大学発ベンチャー創出支援事業、平成14-16年度)というものに応募したら採択されたんです。この制度の中では、そういう応用研究にどんどん資金をつぎ込んで下さい、ということだったので、プロジェクト期間中に応用研究が物凄く進みました。今の基本特許を成立させるための追加実験と特許戦略、様々な企業と連携した応用実験可能性の探索、量産化に適した合成法の開発などはすべて、このプロジェクトの中で開発達成することができました。
 
プロジェクト期間は2005年3月に終了を迎えたのですが、プレベンチャー制度にはプロジェクト終了時にベンチャーを設立することが含まれていたので、ベンチャーを起こすことは本制度に採択された時点で既定路線でした。もちろん、継続資金をどうしていくか、という問題はあったのですが、ベンチャー化を行わなければ開発関係者がいなくなってせっかく開発された技術が途切れてしまう、という危機感から来るものもありました。運良く、ちょうどその頃に東大から「技術移転関連事業者」として承認されたVCのユーテックが立ちあがり、そのユーテックから開業資金を投資して頂けるという話になりました。ユーテックは東大と密接に関係していますので、大学とはベンチャーの設立も含め、最初の段階から一体となって事業を進めてきたということになります。

国やファンドが評価した、スライドリング マテリアルの技術のコアバリューとは何ですか?

やわらかいけれども元に戻る、ということです。これは人体を想定すると当たり前のことなのですが、実は材料では当り前じゃないんですね。人間の生体というのは非常によくできていて、例えば耳たぶなんかをひっぱってもやわらかいんですがちゃんと元に戻ってくれますよね?ところが既存の材料の場合、性質をやわらかくしてしまうと完全に元に戻れなくなってしまうんですね。まさに人間の生体のようにやわらかく、また元に戻す性質を付与することができる、というのがこの材料の最も中心にある価値だと思います。
また、人体にはない機能として、「元に戻るまでの時間」をある程度コントロールできることも、商品としての汎用性を考えるうえで見逃せない特徴となります。

生体組織のようにやわらかくてしなやかな高分子材料であるスライドリング マテリアルですが、
実際に産業利用レベルにおいてはどういった用途が想定されますか?

まず身近にいえば自動車産業ですね。ここ数年は日産自動車さんとコーティングの応用研究開発を進めてきましたが、その領域においてはかなりノウハウが貯まってきています。自動車産業以外にも、材料というのは基盤技術ですので、一個新しい機能が見つかできるとそれが幅広く波及効果をもたらします。
今後は電器電気産業、機械、建築、医療、化粧品等といった幅広い産業の基盤技術として確立し、普及してゆくポテンシャルがあると考えています。
 
実は、技術を発見した直後のアーリーステージでは、生体分野への応用を主軸に考えていました。というのも、我々が最初に作ったものはゲルっていう液体を含んでいる材料だったのですが、液体を含んでいる材料であり、かつ伸び縮みする、これはまさに生体と同じ性質だったのです。生体も50%水ですから、そういう意味では生体組織に近いところで応用研究を進めたいと考えていました。ソフトコンタクトレンズ、人口血管、人口軟骨、皮膚、化粧品のフェイスマスクなど、人体に近い部分でゲルとして使う、という方向性で応用研究をスタートしました。

ところがいざ始めてみると人体に使うというのは非常にバリヤーが高く、様々な認可が必要で、おまけにとても時間がかかることがわかりました。たぶん、大きな会社で、息の長い研究開発プロジェクトとしてやるんでしたら成立すると思うんですけれども、立ちあげ当初のベンチャーでそれをやっていくのは資金的にも難しいだろう、ということがわかってきました。
 
一方、日産自動車さんとはベンチャーを立ち上げる前の段階から一緒に研究開発を進めてきたのですが、スライドリング マテリアルの技術を用いることによって傷が付きにくい塗料を合成できる、ということがわかってきました。我々の最初の発見はゲルだったので、塗料でのこういった特性は応用研究を行う前にはまったく想定していなかったんですが、実際にやってみるとふつうの塗膜、要するにフィルムですね、あるいはゴムのように液体が入っていないような高分子材料であっても今までとは全く違う特性が出ることが判明したんです。やわらかくて傷つきにくく、伸ばしても元に戻る。普通の材料には“圧縮永久ひずみ”という概念があるんですけれども、これは柔らかい材料をずっと圧縮していると完全に元に戻らなくなることを意味しているんですね。ただ、スライドリング マテリアルの場合は、ずっと圧縮していても、圧力を取り除くと完全に元に戻ってくる、という新しい性質があり、これは今までにはない高分子材料である、ということがわかってきました。
 
それ以来、当初進めていた生体の応用研究は一時停止して、自動車のコーティングを中心に、我々の身の回りにあるゴムややわらかい塗膜、プラスチックといった材料の代替品としての応用研究を進めてきました。もとの形状に完全に戻るという特質は、とくに携帯電話の中に入っている封止用のパッキン材などにも使えます。例えば、メーカー側では“材料のへたり”というのを気にしています。パッキンの場合、ずーっと圧縮されていると完全に元に戻らなくなっちゃうんですね。そうするとその封止機能が弱くなってしまって、水漏れとかがでてきてしまうんですが、スライドリング マテリアルの場合はへたらず、きちんと戻ってくれる。ということは、耐久性が非常に高いということですから、いつまでもパッキンとしての機能が保てる、というメリットがあります。
 
そのほかにも最近わかってきた性能として、振動吸収の周波数帯域が非常に広いので振動と音を両方同時に吸収できる、というものがあります。その性質を活かせば、振動吸収剤や音響吸収剤としても応用できることがわかってきました。
たとえば、今後の応用研究によっては、電車の中の内装に使うことで遮音性を高めるとか、飛行機の騒音によるストレスを軽減できる、などといった利用の可能性があると考えています。また最近では透明性が非常に高いという特性を活かすことで、透明性を要求されるやわらかい素材としても利用できるということがわかってきました。

スライドリングの機能の部分や性能の部分は比較的自在にコントロールできるもの、というように認識して良いのでしょうか?

おっしゃる通りです。分子構造がネックレスと申し上げたんですけれども、ネックレスのひもの“長さ”、それから中に入れる輪っかの“数”、そして輪っかに“修飾”といって色をつけたり、飾りをつけたりするわけですが、それが自由自在にできまして、その組合せによって実は性能が全く変わるのです。ですからさっき申し上げたような振動吸収特性なんかもですね、そういう組合せの影響を強く受けますので、基本的な構造はネックレスという点で共通なんですが、実は応用できる種類、および付与できる機能はいくらでも無限にあるというふうにお考え頂ければと思います。

既存の材料と比較して、コスト面ではどうなんでしょうか?

それは非常に重要なポイントでありまして、もちろん我々が実験室で作っていたときは非常に高額でした。それこそ、金の値段よりも高いくらいだったんですけれども、プレベンチャーのときに大量に安く製造する技術を大学の研究室で開発し、ベンチャーを起こしてからはいくつかの会社様とのプロジェクトを通して改良を重ねまして、今は既存高分子材料の生産コストと比較しても遜色ないレベルになってきています。

次のページへ ≫